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まちゃひこのシアタールーム

ブログ「カプリスのかたちをしたアラベスク」の別館。映画の話をするよ!

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チューリング、という虚像――映画「イミテーション・ゲーム」(監督:モルテン・ティルドゥム)

Hatena Feedly

 書かないことに慣れてしまうのは怖いもので、書かないという楽さに押し流された生活をすると、どうやら一生なにも書かないということがじゅうぶんにありえてしまう。しかしどうして書かないことが怖いことなのかはわからない、すくなくとも、書くことを選んだじぶんからじぶんが変わってしまうということには強い嫌悪感がある。

 

映画「イミテーション・ゲーム」を先月みたのでした。

以下はその雑感を書きます。ネタバレが嫌な人はご注意ください。

チューリングという偉人

この映画の感想を書くのを長くためらっていたのは、チューリングという科学者がぼくにとってあまりにも大きい、大きすぎる存在だったから。大学院生になって、計算科学をかじりだして、そのときに出会ったのがかれの3つの論文だった。

チューリング・マシン、チューリング・テスト、チューリング・パターン。

たぶん、大学院生の5年間でかれの論文が一番衝撃的だったし、圧倒的な説得力だけでなく、抽象的なあり方が暗黙に許容されそうな思想的側面までも具体的な現象に落とし込んで論じていくかれの仕事が好きだった。

上記の3つのチューリングの業績に共通点を見出すとするならば、「機械と生命の境界」、ということばが個人的に浮かび上がってくる。

Aという現象にならいBという現象が起こる、という因果律によって個のふるまい(個ということばは世界それ自体と同義でもある)を特定できるとするならば、生体と機械の違いはなんだろうか、どこからどこまでが物理学の機械的なシステムにより決定され、どこからが生命の意志がものごとを決定しているのか…というのはいささか大げさで夢見過ぎなとらえ方だろうけれども、しかし、「思考」という生命特有とおぼしきものへ工学的な具体性を持って切り込んでいくという発想に強くひかれた。こんな研究をしたい、とおもった。

 

チューリングの人間性なんてどうでもいい

ただ、ぼくが惹かれたのはチューリングの仕事であって、アラン・チューリングという科学者の人間性どうこうじゃない。

ぼくが映画「イミテーション・ゲーム」をあまり好きになれなかったのは、この点につきる。この映画では、

 1.チューリングのエニグマ解読、

 2.幼少期の記憶(同性愛の芽生え)、

 3.死の直前

の3つの時間軸を遠し、チューリングという人間の人間関係などの苦悩を軸にしたヒューマンドラマとしてえがかれていて、タイトルである「イミテーション・ゲーム」というかれの考案した有名な思考実験でさえも、かれの人間性の内面を描出するための道具として使われているような気がした。

※このイミテーション・ゲームについてwikipediaを引用

人間の判定者が、一人の(別の)人間と一機の機械に対して通常の言語での会話を行う。このとき人間も機械も人間らしく見えるように対応するのである。これらの参加者はそれぞれ隔離されている。判定者は、機械の言葉を音声に変換する能力に左右されることなく、その知性を判定するために、会話はたとえばキーボードとディスプレイのみといった、文字のみでの交信に制限しておく[1]。判定者が、機械と人間との確実な区別ができなかった場合、この機械はテストに合格したことになる。 

チューリング・テスト - Wikipedia

チューリングが対人関係で大なり小なりのくるしみを持っていたことは、おそらくそうだとおもう。しかし、チューリングという科学者についてのそれは、ぼくにとってはどうでもよくて、ぼくはなんとなく、かれは自分自身に対する興味よりも、じぶんが考えることに対する興味の方がずっと大きかったんじゃないかとおもう。ぼくがこうおもう根拠はないのだけれど、この映画にはそういう面がなかったように感じられた。科学者としてかれが(結果的に)人生をかけることになったことについて、ヒューマンドラマの回収にしか使われていないことに対し、ぼくは好きになれない。

 

科学者を描く、という映画やドキュメンタリーでぼくはそんなことをいつも不満に思う。

いつも科学者の人となりばかりに注目がいき、かれらの仕事についてはほとんど触れられない。触れられたとしても、かれ自身の人となりを回収するための備品のひとつとしてしか扱われない。

 

でもそれがぼくのエゴってことはよくわかっているのだけど、そこのところもうちょっとなんとかならないものなんかな、とかおもう。

 

 

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