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まちゃひこのシアタールーム

ブログ「カプリスのかたちをしたアラベスク」の別館。映画の話をするよ!

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ゆめとうつつのモザイク――映画「ビューティフル・マインド」(ロン・ハワード監督)

※この記事はおよそ1年ほど前に書かれたものです。

 

共働きの我が家では、夕食は「早く帰ってきた方が作る」ということになってはいるのだけれども、帰ってきたときには両方疲れ切っているということもめずらしくないわけで、適当な炒め物やら惣菜やらでなんとかごまかしごまかし食事をとっている。ただ、こういう生活は子どもがいないから許されているのであって、今後ずっとこういう食生活が続くというのは好ましくないっていうのはお互い自覚していて、ましてや、いまは嫁氏のお腹にはまだ男か女かもわからない子どもがいるということを考えればなおさらだった。とりあえず夫婦で参加できる料理教室へ行こう、ということになった。

それが「プレパパママ食育教室」というものだった。

まもなく子どもが生まれる夫婦を対象にした栄養バランスの良い食事と離乳食の調理実習、栄養士の先生の解説、薬剤師の先生による妊娠中の薬の服用についてのお話、という内容で、メインは調理実習、班分けも誕生予定日が近い夫婦がおなじになるように割り当てられていて、いわゆる「ママ友」をつくることも目的のひとつに入っているようだった。

「あたしにママ友なんかできるだろうか…」

といっていたうちのひとは調理実習がはじまると、ぼくやおなじ班の夫婦にテキパキと仕事を割り振り、瞬く間にキッチンを掌握。与えられた献立を効率的に完成、あるいは業務的に生産していく。本職は有機合成である彼女はどうやら料理していると仕事をしている気分になるのかもしれない。そう考えれば、早く家に帰ってきていた日も晩ご飯を作ってくれていない日の気持ちもわからないでもない。

 

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チューリング、という虚像――映画「イミテーション・ゲーム」(監督:モルテン・ティルドゥム)

 書かないことに慣れてしまうのは怖いもので、書かないという楽さに押し流された生活をすると、どうやら一生なにも書かないということがじゅうぶんにありえてしまう。しかしどうして書かないことが怖いことなのかはわからない、すくなくとも、書くことを選んだじぶんからじぶんが変わってしまうということには強い嫌悪感がある。

 

映画「イミテーション・ゲーム」を先月みたのでした。

以下はその雑感を書きます。ネタバレが嫌な人はご注意ください。

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映画感想「アメリカン・スナイパー」(イーストウッド監督)――シチュエーションでしか生きられない

この前の土曜日は妻の誕生日祝いで近所の洒落たフランス料理屋さんにいきました。

白ワインをボトルでオーダーし、酒好きの妻と同じペースで飲んでいるとどうやらガッツリ酔ってしまって、あーこれやばいな、と直感、トイレに駆け込みました。

しかし吐くわけにはいかない。いや、吐くにしてもそれを悟られてはならない。

そう思って、音姫を活用したのですが、ぼくの嘔吐音は楽勝で店内に響き渡っていたとのことです。

 

で、その日。上記の事件が起こる前に話題の映画、「アメリカン・スナイパー」を見に行きました。今日はそのレビューを書きます。

 

 

 

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ゴダールについてのあれこれ――「さらば、愛の言葉よ」

巨匠ゴダールの話題の映画「さらば、愛の言葉よ」が先週から大阪での公開がはじまって、1時間くらいの作品だし仕事をサボってどこかで観よう!とおもいつつも、サボった証拠がたとえ残らなくても仕事を上手くサボれないぼくは、結局週末まで待つことにしました。

今週は体調がずっと悪くて、きっと土曜日は一日寝ているだろうと金曜日は思っていたのだけど、いざ土曜日になると7時半(朝!)には目覚めていて、iPhoneで上映時間を調べるとなんと朝の9:40から上映の1日1回しかなくて、急いで着替えて8時過ぎには家を出ると、いつも出勤で乗っている時間にくる新快速は快速で、ひとは平日よりも全然少ないといっても、三ノ宮までは座れないくらいには混んでいた。

 

ゴダールの映画といえば、文化的意識の高い大学生くらいのひとがむずかしい顔をしながら見ている印象があって、ぼく自身もその類の大学生だったときによく見ていたし、じっさいぼくの次に映画のチケットを買っていた男の子もそんな感じだった。ある翻訳家の方とお話したとき、かれは

「大学生のとき、やたらゴダールやタルコフスキーを見てなにかを論じたりしてみたことがあったあのだけど、あの時期はぼくにとって黒歴史みたいなもので、できることならなかったことにしたい」

というようなことをいっていた。そのときに考えられたり発言されたりしたことは、だいたい頭でっかちで、じぶんで考えたというよりコレクション化した知識の披瀝に過ぎない。……その話を聞いているとぼくも自分の恥部を指摘されたみたいな気分になって、ゴダールやタルコフスキーの名前を人前でいうことを控えた方がいいんじゃないかっておもう。

 

さらば、愛の言葉よの場面カット画像

 

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〝フランス人は照れ屋なの〟〜アラン・レネ「風にそよぐ草」

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恩師と呼べる人は3人いるのですが、そのうちのひとりはぼくのクラシックギターの先生です。
 

先生に習っていた時、あんたフランス人のこと全然わかってない!という指摘を受けたことがあります。当時はフランス人と話したこともないし、フランスに行ったこともないので当然である。

そのとき見てもらっていたのがちょうどフランスの近代音楽で、それは先生の一番の得意分野だという。フランスの留学経験も豊富な先生がいうに、
「フランス人は照れ屋」
らしいのだ。そしてそれはかれらの作る曲にきちんとあらわれる、といい、先生は譜面上の臨時記号を指差した。
「フランス人は、かっこいいことをかっこいいままシュッと終わらせられない。かっこいいことをしているとどこか気恥ずかしくなって、最後にちょっと外した感じでおちゃらける。そこにもっと気を配りなさい」
そういう指導を受けたのだけど、あいにくなんの曲のレッスン(≠ラッスンゴレライ)かは忘れてしまった。
 
 
しかしそれはもちろん音楽に限ったことじゃない。フランスの映画を見ていると、やっぱりそういう傾向はなんとなく感じる。ゴダールにしろ、ジャン=ピエール・ジュネにしろ、オゾンにしろ、そしてアラン・レネにしろ、そういう要素はある。このフランス人のユーモアっていうのは、ちょっと冗長でうんざりすることもあるけど、わりとたのしい。

 

風にそよぐ草 [DVD]

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(以下、風にそよぐ草のネタバレを多少含みます)

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映画と原作小説どっちが好き?あわせて観たい・読みたい作品おすすめ9選!

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なんだかよくわからないモヤモヤした日記やら本や映画の感想ばかり書いていてもよくないな、とおもって、今日は映画と小説、あわせて見たらおもしろいんじゃね?というものを9作品選んでみました。

独断と偏見で、かつ「両方ともすごくいい!」というものばかりを選んだわけでもありません。映画(小説)の方が抜群によかった、というケースもあったりします。ただ、その差異を感じることもまた映画をみたり小説を読んだりする楽しみだとぼくはおもっているので、敢えてそういうものも9選に入れました。10にしたかったけど、無理やり捻り出してもなぁ、と思って、すっと思いついたもの9作品にとどめておきました。

 

紹介の順番に意味はなく、オススメ順位とかそういうものではありません。それでは最後までおつきあいいただければうれしいです。

 

1.ティファニーで朝食を

  監督 ブレイク・エドワーズ

  小説 トルーマン・カポーティ

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ティファニーで朝食を (新潮文庫)

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だれでも知っている映画、そしてだれでも知っている小説だろう。 この映画はぼくが留学前の英語の練習のために何回も見たのだけれど、やっぱりヘップバーンがすごく魅力的に仕上がっているのが印象的だった。ヘップバーンの出る映画はどれもヘップバーンがとてつもない存在感を放っていて、ほかのものすべてがかすんで見えるくらい(!?)。カポーティの原作を読むと、もちろんホリーは魅力的に書かれているが、それ以上に物語の随所にちりばめられたユーモアが、登場人物の魅力を支えているような気がする。村上春樹訳が出て、「こんなのカポーティじゃなくてハルキ・ムラカミだ!」という話もよく聞くけれど、良作は訳者の個性を通しても、その作品の良さを失わないとおもう。ぼくは村上春樹訳もいいな、とおもう。

 

2.蜘蛛女のキス

  監督 エクトール・バベンコ

  小説 マヌエル・プイグ

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蜘蛛女のキス (集英社文庫)

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アメリカとブラジルの合作の映画。刑務所内で出会ったふたりの男が、ひたすらな対話を通してやがて愛し合う系の映画、と紹介してしまうと非常にもったいない作品。なんといってもふたりの織りなす対話の圧倒的な密度高さ、深度が時間の速度を奇妙にゆがめていく。まず原作を読んでから、映画を見るのを強くオススメ。

 

3.コズモポリス

  監督 デヴィッド・クローネンバーグ

  小説 ドン・デリーロ

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コズモポリス (新潮文庫)

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原作と映画で細かな設定に違いがあるものの、映画は原作小説に概ね忠実につくられている。コズモポリスも対話劇的な構成をとっているけれど、こっちは特定のふたりじゃなくて、ライ麦畑的な感じで主人公と他の大勢のひとたちとの対話。映画と原作を比べて驚くのは、どっちを見ても、あ、デリーロだ!っていうイメージがぶれないところだった。

 

4.人のセックスを笑うな

  監督 井口奈己

  小説 山崎ナオコーラ

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人のセックスを笑うな (河出文庫)

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正直な話をすると、ぼくは山崎ナオコーラのおもしろさがまったくわからない。山崎ナオコーラの小説を読んで面白いとおもったものはただの一文もなくて、この「人のセックスを笑うな」の原作も、ぼくは好きになれない。しかし、映画はめちゃくちゃ好きだったりする。大きな違いは、小説と映画で視点の位置がまったくちがうという点から来ているとおもう。余計なことばがないのがいい。

 

5.ブラインドネス

  監督 フェルナンド・メイレレス

  小説 ジョゼ・サラマーゴ(原作邦題「白の闇」)

ブラインドネス [Blu-ray]

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白の闇 新装版

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  • 作者: ジョゼ・サラマーゴ,雨沢泰
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原因不明の失明が人々に感染していく世界を描き、「何を」見ているのかという問題へ迫った、ポルトガルの大作家ジョゼ・サラマーゴの代表作が原作。映画向きのストーリーではあるものの、原作の凄みを知っていると映画を見る前に不安になった。このまえ見たサラマーゴの「複製された男」の映画はクソだったけれど、この映画はよかった。目の見えない世界を見れるのがたのしいし、余計な演出をせずに世界を示すことに徹しているようにおもえたし、冒頭の凄みはサラマーゴの原作が持つものに劣っていない。

 

6.惑星ソラリス

  監督 アンドレイ・タルコフスキー

  小説 スタニスワフ・レム(原作邦題「ソラリスの陽のもとに」)

惑星ソラリス HDマスター [DVD]

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ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)

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巨匠タルコフスキーに原作者レムがガチギレしたといういわくつきの作品。なんでそんなことが起こったのか考えながら見たり読んだりするのがたのしい。また、映画は当時のソ連の状態からか、舞台セットがダウンタウンのコントみたいなのもウケる。ちなみにタルコフスキーは「ストーカー」と「ノスタルジア」が好きです。レムは「完全な真空」とかあの時代が好きだった。

 

7.ブレードランナー

  監督 リドリー・スコット

  小説 フィリップ・K・ディック(原作邦題「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」)

ブレードランナー ファイナル・カット 製作25周年記念エディション [Blu-ray]

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

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  • 作者: フィリップ・K・ディック,カバーデザイン:土井宏明(ポジトロン),浅倉久志
  • 出版社/メーカー: 早川書房
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紹介するまでもないくらいの、名作中の名作SF。科学技術が発達し、機械が記憶のみならず思考や感情を持ち、人間と機械の差異があいまいになった世界を描く。マーサー教が登場するのは小説だけ!

 

8.ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

  監督 スティーブン・ダルドリー

  小説 ジョナサン・サフラン・フォア

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い [DVD]

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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

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  • 作者: ジョナサン・サフラン・フォア,近藤 隆文
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9.11で父を失った少年オスカーが、父の生きた証を探し求め、ニューヨークじゅうのブラックさんに会いに行く、というのがメインプロット。映画版はその筋にそって物語が進んでいくけれども、小説版は父の父の物語が視覚的技法をもって綴られ、オスカーの物語と交錯する。映画→小説の順で見ることをオススメ。

 

9.スカイ・クロラ

  監督 押井守

  小説 森博嗣

スカイ・クロラ (通常版) [Blu-ray]

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スカイ・クロラ (中公文庫)

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デリーロのところでも書いたけれど、小説と映画で印象がまったくぶれない不思議な作品その2。始まりも終わりもなく、ただそこに世界だけがある。無機質であればあるほど、世界が色づき、そして鮮明に描かれるみたいな感覚は、きっと押井守と森博嗣の両者に共通する特徴であり、またこの二人だからできたことなのかもしれない。

楽器を続けるむずかしさ、音楽とことば/映画「ぼくを探しに」(シルヴァン・ショメ監督)

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きのう、土曜日はかなり前から出かける予定が決まっていて、数年前にYouTubeで見て好きだな、日本に来ないかな、とおもっていたギタリストのリサイタルが朝から楽しみだった。マルシン・ディラのタンスマンやポンセが好きだった、というか、それぐらいをYouTubeで聴いたことしかなかったわけだけれども。

 

 


Marcin Dylla - M. Ponce: Sonata Romántica - YouTube

(※きのう、この曲は弾いてません) 

 

 ディラはいうまでもなくすばらしかった。アンコールのアラビア風奇想曲がぜんぜんアラビア風じゃないのが、むかしだったらえーってなっただろうけど、なんだかたのしいとおもってたのしめた。 

 ギターをほとんど弾かなくなってから、ギターを聴きにいこうという発想自体がほとんどなくて、今回のコンサートを誘ってもらったことはとてもうれしいことだった。 ギターを弾かなくなると、とうぜん弾けなくなる。けれども音楽はギターを弾くよりは多い頻度で聴くわけで、久々に弾いたりするとじぶんの音にゼツボーして、真面目に練習するのがいやになってしまう。それは、一度楽器をやめてしまえばもう二度と楽器をはじめられないことを意味しているみたいな気がする。だけど、もう一度楽器をしたいという気持ちはぼくにもあって、爪を未練たらしくいまだにのばしている。

 そして久々にギターを聴いておもうことは、ギターという楽器がいかにひとに聴かせるのがむずかしい楽器かということだった。そして音楽といものが、演奏家ひとりによってなされるわけでなくて、演奏家と同等とはいわないけれども、でもそれくらい集中してすべての聴衆がその音楽を聴かなければ、とくにクラシックギターという楽器のよさがあらわれないような気がした。とくに、きのうは近現代の音楽が多いプログラムだったから、そう感じたのかもしれない。

 

 

ぼくを探しに [DVD]

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(以下、映画「ぼくを探しに」の内容に関する言及があります)

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